-RealSport!- HOREX644OSCA Normal(1991.7) review

 C.K.デザイン代表 佐々木 和夫氏インタビュー 2001.10

 幸運なことに今回HOREX 644OSCAの設計者、C.K.デザイン代表の佐々木和夫氏にお話を伺う機会に恵まれた。佐々木氏は1970年から79年までホンダで車体関係を中心に設計に従事、その時代に携わった代表的な車種はCB350Fに始まりモトクロッサーRCシリーズ、革新的な車だったGL500、GL1000、大ヒットしてスクーターの革命となったロードパル、そしてロードレーサーRCBに及ぶ。GL500では水冷及び熱交換器技術の研究成果が結実、GL1000ではフェアリングを空力面から先行研究。ホンダ退社後C.K.デザインを起こしモーターサイクルを中心に展開、一般に目に触れるところでは宅配ピザの車体、モトクロッサーのクロスカウル(いずれも草分け)、インド生産べスパ(パジャジ)のオリジナルバージョンの輸入販売などを手がける。そしてもちろんオリジナルスーパーバイクHOREX 644OSCA。大学時代からすでに執筆活動も行っており著書多数。

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Q.32才という若さでホンダを退社されていますが、そのときの目標にはオリジナルバイクの実現というテーマが最初からあったのでしょうか

A.理想とする車の実現は目標ではありましたが、かたや不可能だと認識してもいました。ホンダを退社した理由のひとつは海外で働きたかったこと。実現しましたが1980年にはC.K.デザインとして独立しました。モーターサイクルを中心に幅広く手がけていく中で、世の中にいかに図面のないものが多いかということに衝撃を受けましたね。ホンダではそんなことはありえませんでしたから。OSCAが実現できたのはホントにタイミングでしたが、やるべきかやらざるべきか悩みましたね。

 低いスクリーンを冠するスラントしたカウルが面の美しさを主張するサイドビュー。垣間見えるフレームのパイプワークは独特。レイダウンされたRショックが片持ちのため左右で後輪まわりの表情が異なる。調整幅1365〜1388mmのホイールベース間に占める長いスイングアーム、ステップ位置、クランクの位置関係の自由度の高さはシングルスポーツならではだが大量生産を前提としない加工精度と組み付けの手間がこれを可能にしている。この機体は極初期の644OSCAノーマル。ミュージアム行きの一台。

Q.HOREXとの出会いはケルンショーとうかがっていますが。

A.初めてHOREXの車を見たのは高校生の頃、中野の卸みたいなバイク屋さんでした。すごくカッコよくて感動したんですが、1982年か84年くらいのケルンショーでやっぱりすごくカッコいいバイクを見かけて、そのときは資料をもらったくらいだったんですが後になってあのHOREXだったのか、と昔のことを思い出しました。その後バイクの輸入を考えることがあって、1986年当時イタリアHRDと協力体制にあったHOREXにアプローチしたんです。

 
 右1本のRショック、左1本出しのマフラー、そして小さなRアクスルが見せる特異なリアビュー。Rアクスルが小さいのはチェーンアジャスタ機能がスイングアームピボット側に振られているため。保器類はドミネーターのものを流用する。テールライトなどは外した方が本来の姿なのは明らか。
 
 シンプルかつスリムなフロントビュー。実に控えめなウィンカ位置が量販車然と見せない。引き締められたカウルと倒立フォークのクリアランスに注目。サイドスタンドは横へ大きく張り出して軽い車体を支える。装着していたタイヤはメッツラーF/R ME1 120/60ZR17/ME55A 150/70VB17。

Q.そこからOSCAプロジェクトに発展していくんですね?

A.社会的な変化などいろいろなことがあってそんな風になりましたね。最初は輸入だけのつもりだったんですごく悩みました。やりたい気持ちはもちろん大きいんですがいろいろな意味でリスクも大きい。10年後だったらもっと成功する可能性も高くなるけど、でも今このチャンスがあって10年後の自分はどう思うかと考えて、やることにしました。こんな楽しいことをなんであのときやらなかったんだろう、そう思いたくなかったですから。プロジェクトにあたっては本当に大勢のひとに協力してもらいました。ホンダでRCBを手がけたときの経験はまったく得がたいものでしたね。だからOSCAにはそういった人々の夢が詰まってるんです。


 パワーユニットはホンダ ドミネーターの空冷OHC4バルブシングルのRFVC(放射状バルブ配列)で、吸排気系に手が加えられている。クランク前右側へ連結されるメッシュホースはドライサンプのオイル流路。フレームのトップチューブ左側をオイルタンクとして使用する。エキセントリックカム式のスイングアームピボットが特徴的。またフレームの部位による径の違いにも注意されたい。9種のクロモリ鋼管が使用されている。
 

 エンジンユニット左側。ドライブスプロケットカバーは至ってシンプル。排気系はクランク下のこの位置で連結され左側へ導かれる。
 

 右側のスイングアームピボット上方。ニッシン製Rブレーキのマスターシリンダは潔くこの位置。フットレストより前方であり干渉はない。航空機用バンジョーで結ばれるステンメッシュにスパイラルチューブを巻いたブレーキケーブルがフレーム内側からスイングアームに沿って導かれる。ショーワ製Rショックのリザーブタンクはこの位置。Rサスがスイングアーム上にあるためこの内側はエアクリーナボックスと、ご覧のようにそれに抱えられたMFバッテリで占められる。
Q.OSCAはターゲットが非常に明確なバイクだと思いますが。

A.購買層を仮にピラミッドに見立てればその頂点のほんの一部、ベテランライダーに向けた車です。ディメンジョンがレーサーと同様になっている点など、ライン生産に不向きで、またイージーには乗れないところもあるのですが本当に乗れた(操れた)ときはその喜びを満喫できる、そういうつくり方をしています。高価なこともあってオーナーには四輪でも外国製スポーツカーを所有しているような方が多いですね。たとえばタンクは製造に非常に手間のかかる構成のアルミなのですが、これをスチールにするなどコストダウンを図っていけばあるいは価格はもっと落とせるかもしれない。でもOSCAは私たちメーカー、オーナー、そしてこれを理解してくださるひとたちの「夢」ですからそのようなことはしません。


 タンクは8つのパートからなるアルミ製。特に基部の複雑な形状がうかがえる。ニーグリップ部のダクトの内側はエアクリーナボックスで、吸気はその後方からになるため、通常仕様ではこのダクトにはあまり意味はない(快適性に若干寄与するかもしれないが)。K&Nフィルタ仕様やあるいはエアファンネル仕様時のためのもの。
 
 
 タンクキャップは今では珍しくもない航空機タイプだがここまでガッシリしたつくりのものは類例がないのでは?このタブの厚みをご覧あれ。馴染みが出る前提でこの機体ではかなり硬かった。タンクキャップは右にオフセットされる。
 
 
 左トップブリッジ前方のクラッチケーブル、チョークケーブルだがアウターにシルク印刷されたHOREXのロゴが見えるだろうか。スピードメーターパネルにもHOREXロゴが見える。また左上にカウルを留めるビスが写っているがその贅沢な選定にもこだわりがうかがえる。
 
 
 OSCAオーナーの仕事場風景。バフがけされたトップブリッジはシンプルな造形でイロモノパーツを使用していないところなど上品な佇まい。ステアリングトップを隠す装飾蓋や、Fブレーキのリザーバタンクを避けてあえてセンターではないメインスイッチ位置に注意。

Q.HOREXというブランドは残念ながら日本ではあまり馴染みのないメーカーなのですが実際の生産はドイツで行われているのですか

A.ショーワを始め多数の国内メーカーからパーツを調達していますがアッセンブリはドイツで行っています。HOREXは1920年くらいの創業でかつてはBMWより大きなメーカーでした。ヨーロッパでは知名度がかなり高く、同時にその歴史も認識されているのです。そのエンブレムを冠するにあたり、それを支えてきた人たちの思いを託されているともいえます。それをしっかり受けとめたいと思い、たとえばエンブレムはHOREX HRD時代のものはステッカだったんですがOSCAでは金メッキに七宝焼きです。車体デザインには機能的なものが多分にあるのでかつてのHOREX車のイメージを活かしてというのは難しいのですが、タンクのシルエットに一部HRDを意識したラインを入れました。設計者の気休めかもしれませんが。

 
 メーターは日本精機製。左がスピードで220km/hフルスケール。タコメーターは5000近辺を下に10000rpmまで目盛られるがレッドゾーンなどの表記はない。そのデザインやイタリックの字体は視認性云々より洒落っ気を感じさせるが、反面インジケータの一切を省いた部分は心得のない乗り手を拒絶する部分。ニュートラルランプすら装備しない。メーターを支えるパネルは発泡材などではなく黒の艶消し塗装を施したメタルプレート。
 
 
 トップブリッジ側面の肉抜き兼装飾の切削跡が見える。ハンドルのスイッチボックスなどはドミネーターのものを流用する。フレームのトップチューブ左側をドライサンプのオイルタンクとして使用するが、ステアリングヘッド基部近くに設けられたHEXレンチで開閉するキャップがそのオイル口。そのすぐ下内側あたりにクランク右下に伸びるオイルチューブが接続される。
 
 
 トップチューブ左下側、タンクとカウルの隙間に見えるボルトはオイルレベルチェックのためのもの。カウルを外さないと使えないが用途的にそういうもので割り切った設計。
 
 
 タンク両サイドに輝く伝統のHOREXエンブレム。金メッキと七宝焼という贅沢なそのつくりもそうだが、タンクに施された厚い塗装もうかがえるだろうか。
 
 上はボトムブリッジをカウル下から覗いた絵。無垢のアルミ材を削り出したもので左右2本ずつのHEXボルトで締結される。下側には大きな肉抜き加工。ステアリングの軸受は上側がラジアルボール、下側はテーパーローラーベアリング。またエンジンヘッドぎりぎりの狭さで仕上げられたフレーム、カウルの造形がわかる。スパイラルチューブを巻かれているのがステンメッシュのブレーキホース。右側の黒いアウターはFアクスル左側から取るスピードメータケーブル。
 
 右上はニッシン製フローティングブレーキシステムを搭載するフロントまわり。アキシァラブルFフォークと呼ばれるショーワの倒立フォークはフルアジャスタブルでアクスル部は偏芯カム。実はかなり複雑なデザインのFフェンダーにも注目。
 
 右中段Rまわり。ニッシンのキャリパはフローティングされ、そのロッドは理論通りスイングアームに並行に近い形でボディのフレームへピロボールで連結される。Rディスクはホイールに固定。すっきり見えるのはチェーンアジャスト機構がRアクスルにないため。右サイドカウルにはこのようにRショックの逃げが設けられている。7本スポークの前後ホイールもHOREXオリジナル。
 
 右下。Rショックのマウントまわり。このマウントの交換によりより広い範囲で設定が可能になる。Rショックも専用開発のショーワ製で2段スプリングを使用するがばねピッチの細かい方がばね下側と通常と逆になっている。もちろんフルアジャスタブル。またステップホルダーとスイングアームのクリアランスにも注意。もしかしたら量販車との違いが最もわかりやすい部分ではないだろうか。単品でのクオリティなら社外品にも美しいものは多くあるが、全体の一部として設計段階から考慮されているパーツとは組み方はもちろん安全係数の取り方まで考え方が全く異なる。
Q.1991年の設計からすでに10年が経過しています。周辺パーツも進化しているわけですが車体側で見直されてきた点等はありますか。

A.車体側では基本的にありません。設定範囲も広いですし十分対応できます。たとえば設計当時は前輪ラジアル、後輪ベルテッドバイアスでしたが今現在出荷されるのはもちろん前後ラジアル(メッツラー)です。そのままでなにも問題ありません。サスペンションなどは順次進化していますが基本性能に最初から妥協がありませんから不足はないと思います。グレードによる差別化のためにコルサなどではオイルクーラーを付けたりしていますが、オイルタンクにフレームの一部を使用するもともとの部分で油温は10度は下がりますからこれもあえて必要ではないのです。

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HOREX 644osca